市民医学講座
第15回 市民医学講座 『白内障 -特にその手術を中心として-』
講師 菊池眼科クリニック 菊池玄
白内障は、極めて頻度の高い疾患であり、中でもその大半を占める老人性白内障は、外来診療においても手術室内のおいても最も日常的な疾患であります。
最近、我が国においては平均寿命の伸びが目覚ましく、それに伴い老人性白内障が著しい増加傾向にあります。又、社会環境が複雑となり、高齢者といえども高度の視力が求められるようになり、早期に手術を希望する者が多く、一層白内障患者の増加に拍車をかける結果となっています。
本症は、白髪と同様の加令現象であるため、とくに治療の効果は無く、日常の生活に著しく支障を来すようになって手術を行うことが唯一の治療であり、白内障の歴史は、そのまま水晶体摘出術の変換といってよい程その手術療法が眼科臨床家の話題の中心になってきました。
顕微鏡手術が眼科手術に導入されるに至って、高度な手術法が次々と開発され、今日ほぼ完成の域に達したといっても過言ではないと思います。
白内障の種類
(1)先天性白内障
原因不明のものが大部分であるが、妊娠初期の感染(風疹)、薬剤、放射線被曝、遺伝等がある。
(2)老人性白内障
若年性白内障…39才頃まで 壮年性白内障…40~59才
老人性白内障…60才以上 70才以上では90%以上が存在。
<分類>
● 初発部位により、核白内障、皮膚白内障、嚢下白内障
● 程度により、初発白内障、未熟白内障、成熟白内障、過熱白内障
● 形態により、楔状白内障、冠状白内障、膨隆白内障
(3)併発白内障
糖尿病やぶどう膜炎、緑内障、硝子体出血などの眼病に合併して起こる白内障。
(4)ステロイド白内障
長期間全身投与を受けた場合に発生することあり。
慢性腎疾患、リウマチ、気管支喘息、その他
後のう下皮膚の淡い混濁として認めるが、内服中止によりやがて消失する。
(5)放射線白内障
レントゲン照射による。
上顎ガンなどの顔部に照射する場合は、眼球の保護が必要。
(6)外傷性白内障
(7)その他
アトピー性皮膚炎 向精神薬剤白内障 ガラクトース白内障
治 療
(1)薬物
カタリン点、カリーユニ点、ノイチオン点など。
進行をできるだけ遅くさせるのが目的で、本来の治療ではない。
将来、薬物により混濁した水晶体を元の透明な水晶体に治癒させることが可能であれば、全世界から白内障による失明患者の多くを救うことができるでしょう。
(2)手術
1.嚢内摘出術 2.嚢外摘出術 超音波白内障手術
(3)手術後の視力矯正方法
1.メガネ 2.コンタクトレンズ 3.人工水晶体(眼内レンズ)
術後合併症
1.後発白内障 YAGレーザーによる後のう切開で解決
2.術後乱視 小切開手術によって解決
3.その他 出血、緑内障、感染症など
白内障手術は、今日ほぼ完成期を迎え、手術不可能な症例はないとまでいわれています。
麻酔法の改善、粘弾性物質の登場、手術器具の改良、眼内レンズの安全性、手術法の確立などで「白内障はこわくない」といったところです。
Quality of Lifeの重要性がさけばれている中、「年だから」「手術するのがこわいから」「家の人に反対されたから」などといった概念から脱却し、高齢化社会が進む中、一人でも多くの老人を白内障による視力障害から救ってやることが私達眼科医の努めだと思います。