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第22回 市民医学講座  『生活習慣病と目』

講師 星眼科医院 星 秀二

 我々の社会が長寿社会と言われるようになって久しいが、実際は加齢と共に様々な疾患が生じてくる。
昨今、生活習慣病と位置づけられる高血圧、糖尿病という疾患が代表的な例であり、これらの疾患の合併症として眼にどのような障害が現れてくるのかについて説明する。
まず始めに眼球の構造について説明する。眼球とは文字どおり球(ボール)状の形態をしている。このボールの内部に、前方より、角膜、虹彩、水晶体、硝子体、網膜という順に光軸に沿って組織が並んでおり、ちょうどカメラのフィルター、しぼり機構、レンズ、フィルムが光軸上に並んでいることと同様である。外界の景色は角膜・水晶体というレンズを途中、虹彩で光量調節を受けて通過し、網膜というフィルムの上に結像する。網膜は光刺激に反応する感覚網膜と、光刺激を整理統合(コーディネイト)して脳に伝える神経網膜とに大別され、それぞれ一次ニューロンと二次ニューロンを形成している。
これらの組織を維持するために、多くの血管群が眼球をとりまいており、特に脈絡膜と呼ばれる組織は、膜というよりも、毛細血管で作り上げられたバスケットようであり、このバスケットの内側に網膜が収められており、脈絡膜はこの網膜の感覚網膜側一網膜の外側で光刺激に反応する視細胞群一を栄養しているのである。これだけの血液にさらされていながら、眼球の内部には健常状態では血液が漏出していない。その理由は、網膜の最外層にある網膜色素上皮細胞と網膜最少血管の内皮細胞とがバリアー構成をしているためである。これを、血液一脳関門に例えて血液一眼柵と呼んでいる。
生活習慣病の合併症として生じてくる眼疾患は、この血液一眼柵の破綻が多くの場合原因となる。

高血圧と眼

本能性と二次性とを問わず、高血圧症に伴う血管の変化が問題となる。細少血管の内腔が狭細化することで、細少血管の内圧が上昇し、血管の内皮細胞の破綻から出血をきたす場合と、狭細化した血管が閉塞症をきたして出血する場合とがある。前者は動脈性の出血に多く、後者は静脈性の出血が多い。
まれに網膜中心動脈に閉塞症を起こすことがあるが、この結果、心筋梗塞と同様に、不可逆の重薦な視力障害をきたす。多くは心房細動などの心疾患が原因となり、血栓を生じるためで、脳梗塞を起こす危険性もあり、原疾患の治療が重要となる。
高血圧と眼疾患の関連については下記の二分類が広く用いられており、動脈硬化の進行度を現している。数字が多いほど進行度が高くなっている。

Keith-Wagener分類

0群 正常
I群 血管腔狭小と動脈硬化がわずかに見られる。
II群 銅線動脈。交叉現象が加わる。
III群 口径不同。軟性白斑・星芒状白斑・その浸出物・網膜浮腫・種々の形の出血が加わる。

Scheie 高血圧性変化(H)

I度 わずかの狭小を認めるもの。
II度 細動脈に口径動揺が加わる。
III度 出血・白斑が出現する。
IV度 乳頭浮腫。

動脈硬化変化(S)

I度 動脈壁反射亢進、交叉現象軽度
II度 反射亢進が著明、交叉現象中等度
III度 銅線動脈、交叉現象著明
IV度 銅線動脈

 いったん毛細血管が破綻し、出血をきたすと、周辺網膜に不可逆性の変性を生じ、その部分の視力が障害されるため、レーザーによる光凝固療法を行い網膜内の細小血管網を凝固閉塞させ、病変部からの出血の消退を促すことが必要となる。

糖尿病と眼

 一般には日本では500万人の糖尿病患者がいると言われている。昭和63年度の厚生省の身体障害者の実態調査によると、両眼視力の0.6未満の視覚障害者の原因としては糖尿病性網膜症が17.9%で第1位である。
網膜症の発症は糖尿病の罹病期間と密接な関係があり、I型II型糖尿病と合わせて、5年で約6%、10年で約20%、15年で約60%、20年で約80%、30年で90%が網膜症を有するようになるといわれる。
 糖尿病性網膜症の予後を最もよく示唆するであろうと言われているのがHbA1C値であり、それは網膜症発生のメカニズムとも関わってくる。HbA1C値が上昇すると、血液凝固系の亢進により、微小血栓が出来易くなる。赤血球の酸素運搬機能が低下する。赤血球の粘性が上昇する。等々、網膜内の微小循環障害される方向に進む。その結果、網膜に部分的な虚血領域が形成され、その部分から血管成長因子が放出さてれ新生血管が生じ、これが極めて脆く、また、血管内皮細胞が不十分なため、ここから広範な網膜出血や硝子体出血を起こすのある。これを予防するためには何と言っても眼底検査が重要で、初期の毛細血管瘤や点状出血のレベルを越えたら速やかに光凝固療法を行えるようにしておきたい。内科医との連携が重要である所以である。一般にはHbA1C値9.0%が予後を分ける分水嶺とも言われているが、患者のコントロール状態により、様々であり、安易な一般化は危険である。
 以上第22回市民医学講座より要約して述べた。


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