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第26回 市民医学講座 『胃がん・大腸がんについて』

講師 寛内科胃腸科クリニック 佐藤 寛

図1 主要死因別にみた死亡率(人口10万対)の推移

 わが国の死因の1位は、昭和56年以降「がん」となっています。その中でも胃がんは肺がんについで2位、大腸がんは3位と死亡率の高い病気です。胃がんは、近年その死亡率は低下しつつあるものの、わが国の罹患患者は年間数十万人に達しています。胃がん・大腸がんは早期発見、治療によって完治できる病気です。

 胃がん・大腸がんを中心に、がんの現状を知っていただき、また、生活習慣や予防因子、危険因子、検診などについてお話させていただきます。

 早期発見や予防に役立てていただければと考えます。

わが国の死因の1位は昭和56年以降は、悪性新生物(がん)となっています(図1)。

 胃がんの死亡数は、1970年(昭和45年)以降は3万人前後で推移しています(男性)。

 大腸がんは1970年には約4千人であったのが、2000年(平成12年)には、約2万人に増加しています(男性)。

図2 部位別にみた悪性新生物死亡数割合の年次推移

 死亡数の割合で見ると、胃がんの割合は1950年と比較して2000年には半減している一方で、大腸がんの割合が増加しています(図2)。

 この50年間でがん死亡が男性で6倍、女性で4倍に増加しているにもかかわらず、胃がんの割合が低下しているのは、胃がんの検診の普及、診断精度の向上、食習慣の改善など胃がん対策が進められた成果であろうと言われています。

 大腸がんの割合の増加は、生活習慣の変化などが考えられます。大腸がんの割合の背景には、肉類、脂肪、アルコールなどの摂取量の増加が考えられています。

 胃がんについては、食塩の取りすぎや焼き魚などに含まれるニトロ化合物、ピロリ感染などが危険因子として重要であるとされています。

 日本における胃がんの地域差をみますと、秋田、山形で高く、九州、沖縄で低く、約3倍の開きがみられます。塩分摂取量の多い北陸東北地方で高く、米国なみに塩分摂取の低い沖縄では半減すると言われています。

 また、胃がん大腸がん罹患率の人種差をみますと、胃がんは日本人、中国人に多く、米国品人で少ない。ハワイの日系人では、日本人より少なく米国人より多い。大腸がんは、米国の白人黒人より少ないと言われてきたが、最近では接近しており、日系人ではやや高率です。食事などの環境因子によると考えられています。

◆生活習慣病としての消化器がん

表1 日本人における消化器がんの危険因子と予防因子
(-日本がん疫学研究会による綜合判定-)

 消化器のがんの多くも生活習慣病とされています。

これまでに、主として日本で行われた疫学的研究により明らかにされた、生活習慣病と消化器のがんの因果関係を要約すると、【表1】のようになります。空欄は研究結果がないもので、三角印は可能性はあるが、日本人についてのデータがないものです。

胃がんの危険因子では、塩分多食が最も重要で、特に塩辛い食品(うに、塩から、佃煮、野菜の塩漬けなど)です。喫煙、多量飲酒、焼肉、焼魚もリスクを高めるという報告がありますが、通常の食事でとる焦げの量では、はっきりとした結果は無いようです。

予防因子としては、新鮮野菜、果物、緑黄色野菜、緑茶、コーヒーがあげられます。コーヒーには、抗酸化物質が含まれており、毎日の飲む人では、ほとんど飲まない人に比べて胃がんのリスクが半減しているという報告があります。

大腸がんでも、胃がんとほぼ同じ様ですが、危険因子で運動不足や脂肪、肉類多食が、予防因子で繊維を多く含む食品があげられています。バランスの良い食物繊維が、がんの予防に大切なことが分かります。

◆ヘリコバクター・ピロリ感染と胃がん

図3 胃がん患者と対象者のヘリコバクター・ピロリ抗体陽性率

  • 胃炎、消化性潰瘍、ポリープ・胃がんなどはすべてピロリ感染が原因であろうと言われてきています。

  • 1998年の研究で、全国のピロリ抗体陽性率は、20歳以下13%、20代で24%、30代で35%、40代で56%、50代で66%、60代で73%、71歳以上で74%であった。全国でほぼ一律。

  • 胃粘膜萎縮、腸上皮化生という変化が、ピロリ抗体陽性者で明らかに高い。都道府県で差はなく、沖縄県のみ有意に低い。

  • 胃がん患者のピロリ抗体陽性率は、対象者に比べ高く、若年者ほど高い(図3)。

◆検診について(平成15年度 宮城県対がん協会)

1)胃がん検診

  • 受診総数/206,486名(男:89,128名・女:117,358名)
    精検該当数/18,163名(8.8%)
    発見胃がん/412名(0.20%)
  • 発見胃がん/412名
    男:308名(74.8%)・女:104名(25.2%)
      412名/早期胃がん 297名(72.1%)
      412名/内視鏡切除例 154例(33.4%)
      (経過観察者からの発見胃がんを含む)

2)大腸がん
  一次健診(便潜血検査)

  • 受験総数/76,597名
    精検該当者/2,199名(2.9%)
    発見大腸がん/177名(0.23%
  • 発見大腸がんの早期がん率/59.9% 177名(106名)
◆胃がん・大腸がんの症状、発見のポイント

〈胃がん〉

  1. 胃がんに特異的な症状はない。
  2. 症状の出現は、がんの型、深達度、大きさ、発生部位、転移の有無によって異なる。
  3. 早期胃がんでは無症状で、たまたま行った検査で偶然発見されたり、検診で発見されることが多い。
  4. 一般的には、腹部症状として心窩部痛、腹部膨満感、心窩部不快、食思不振、悪心、嘔吐、吐血、下血などがみられる。

〈大腸がん:診断のポイント〉

  1. 早期がんでは無症状のことが多い。便潜血反応がでないこともある。
  2. 血便、下血、便に血液が付着したり、便に血が混じったりした場合、たとえ痔があっても大腸がんを疑う。
  3. 便潜血反応で一度でも陽性ならば、大腸検査を。
  4. 腹部の腫瘤、原因不明の鉄欠乏性貧血は検査を。
  5. 排便習慣の変化、便通異常:理由なしに便秘や下痢が出現し、継続する場合は要注意。
◆まとめ

病気は、予防、早期発見、早期治療が大切です。 胃がん、大腸がんの現状、現在指摘されている危険因子、予防因子。早期発見のために検診がいかに有用であるか、どういう症状が認められたら注意が必要かについてお話させていただきました。 生活習慣の改善を心がけ、各種の検診も積極的に受けることが大切です。 必要以上に神経質になることはありません。 病院も上手に活用していただきながら、元気で楽しく、長生きしていただければと考えます。


引用文献

  1. 総合臨牀 2005,vol.54,no.9
  2. 国民衛生の動向 2005年 第52号 第9号
  3. 宮城県対がん協会 事業年報 平成15年度

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