市民医学講座
第31回 市民医学講座 なぜ今「子宮頸がん」なのか
~子宮頸がん予防ワクチンについて~
関井レディースクリニック 関井亜有美
この度、大崎市医師会のご高配により昨年11月11日に市民医学講座を開催させていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
子宮頸がんは世界的に女性が罹患するがんとして、乳がんに次いで発症率死亡率ともに高いがんである。近年20歳代や30歳代の若年層で増加傾向であり、ちょうど出産時期と重なることから“マザーキラー”とも言われ、多くの若い女性が亡くなっている。日本でも年間約8000人が新たに診断され、約2400人が死亡している。しかし、子宮頸がんの発症にはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が大きく関わっていることが判明し、発症機序が解明されてきたため、近年、世界的に「子宮頸がんは予防できるがん」という認識が定着してきた。今年2月から大崎市でも全額補助が出ることが決まった子宮頸がん予防ワクチンについて話していきたいと思う。
<子宮頸がんとは>
女性生殖器に発生するがんは、子宮頸がんと子宮体がんが多数を占める。子宮頸がんと子宮体がんは“子宮がん”として混同されがちだが、同じ子宮に生じるがんでありながら、発症には子宮頸がんはウイルスが関与するのに対し、子宮体がんの多くは女性ホルモンが影響するなど全く異なるがんである。
<子宮頸がんの原因>
子宮頸がんの多くは発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因である。HPVはヒトの皮膚や粘膜にいる、ごくありふれたウイルスである。HPVには多くの種類があり、その数は100種類以上と言われており、そのうち子宮頸がんの発症に関与している発がん性HPV(ハイリスクタイプHPV)は15種類ほどあるが、日本人全体では16型、18型の割合が多く、検出率は約60%と高率である。(20~30歳代では約80%の検出率)
子宮頸部への感染はほとんどが性交渉によるもので、性交渉によって子宮頸部粘膜に微細な傷が生じ、そこから子宮頸部の基底層にウイルスが侵入して感染が起こると考えられている。HPVに感染することは決して特別なことではなく、性交経験がある女性なら約80%はハイリスクタイプのHPVに一度は感染すると言われている。
ハイリスクタイプのHPVに感染しても、ほとんどの場合は一過性で、ウイルスは自然に排除される。ウイルスが排除されずに長期間感染が続くと、子宮頸部の細胞が次第に異常な形態(異形成)を示すようになる。異形成に変化しても多くは自然治癒していくが、ごく一部のケース(0.15%)では自然治癒されずに異形成が進行し、数年から数十年かけてがん化していくと考えられている。
<子宮頸がん予防ワクチンの実際>
1.効能、効果
HPVワクチンは発がん性HPVのうち約60%を占める16型、18型の感染を予防するが、他のタイプの発がん性HPVの感染予防効果に関する臨床データは十分ではない。予防効果の持続期間は確立されていないが、臨床試験で6.4年間は抗体価の持続が確認されている。また、推計学的には20年以上抗体価が持続するという報告がある。
2.接種推奨年齢
- 第1の接種推奨年齢:11~14歳の女児
HPVは主に性行為によって感染するが、初回性交後短時間で感染するリスクが高いため、ワクチン接種は初回性交前に行われるのが理想である。性交経験率は中学3年生までは概ね10%以下であるのに対して、高校生になると20%以上に増加する傾向が見られることから、性交経験者が増加する前の中学生までにHPVワクチンを接種すると効率が良いため、11~14歳の女児を第一の接種対象として推奨している。 - 第二の接種推奨対象:15~45歳までの女性
前述のようにHPVは性行為で感染するため、15歳以上であっても性交経験のない女性に対しては全面的にHPVワクチンの利益が得られる。またすでに性交経験のある女性においてもワクチンに含まれるいずれかのHPV型に感染している可能性はあるものの、ワクチンに含まれる未感染のHPV型による疾患の予防効果は得られる。
3.接種スケジュール:合計3回接種する。
初回接種後1ヶ月後と6ヶ月後に接種する。時期が多少ずれたとしても、3回接種しないと十分な抗体がつかない。
4.特別な状況における接種
- 他のワクチン製剤との接種間隔
生ワクチンの接種を受けた者は、通常27日以上間隔をおくこと、また他の不活化ワクチンの接種を受けた者は、通常6日以上間隔をおいて接種すること。 - 細胞診に異常所見またはHPV感染がみられる女性へ接種
細胞診異常、HPV陽性、尖圭コンジローマの既往のある女性についての接種については、感染していないHPV型による疾患の予防目的としてワクチン接種は十分意義はあると考えられる。しかし、ワクチンが既存のHPV感染や子宮頸部病変に対して治療効果はない。 - 妊婦、産婦への接種
妊婦に接種した場合でも自然流産、奇形の発生率には有意差は認められていない。しかし、現在のところデータが十分でないため、妊娠または妊娠している可能性のある女性への接種は妊娠終了まで延期することが望ましいと考えられる。接種が始まっている妊婦については分娩終了まで待って残りの接種を行う。 - 授乳婦への接種
授乳婦への接種について安全性は確立していない。 - 免疫不全患者への接種
健康状態、および体質を十分配慮した上で接種適否の判断を慎重に行い、同意を得た上で注意して接種する。
5.副反応
国内臨床試験における局所の副反応は疼痛99.0%、発赤88.2%、腫脹78.8%、また、全身性の副反応では疲労57.7%、筋肉痛45.3%、頭痛37.9%などであるが、局所症状の大部分が軽度から中等度で、3回の接種スケジュール遵守率への影響は見られていない。また、気を失う例の多いことが厚労省の調査で報告されており、接種者の大半が思春期の女子で、このワクチン特有の強い痛みにショックを受け、自立神経のバランスが崩れるものが原因と見られる。
<おわりに>
子宮頸がん予防ワクチンは、全体の約60%であるHPV 16型および18型に起因する子宮頸がんの発生を防ぐことができる。しかし、ワクチンを接種しても16型、18型以外の発がん性HPVの感染は予防できない。また、接種時に発がん性HPVに感染している人に対して感染しているウイルスを排除したり、発症している子宮頸がんや前がん病変の進行を遅らせたり、治療することもできない為、ワクチン接種後も被接種者に対し定期的に子宮がん検診受診の重要性を十分説明する必要がある。