市民医学講座
第32回 市民医学講座 これって、リウマチ?
― 最新の診断と治療について ―
大崎市民病院 副院長 髙井 修
大崎市医師会主催の第32回市民医学講座で市民の方たちにお話する機会をいただき、大変ありがとうございました。多くの方々のお顔を拝見しながらの講演でしたので、こちらも楽しませていただきました。 大崎市民病院に勤務してもはや10年以上になりますが、この10年はリウマチ学にとって変化に富んだ期間でした。治療の面でいくつもの画期的な前進がありました。ちょうど年齢的にも体力的にも残念ながら下り坂に入りそうな時期に、学問や診療の進歩が私を引っぱって来てくれた、そんな気がして、最近になってやっとリウマチを専門としていてよかったなあと思えるようになりました。少人数(実際はほぼ1人ですが)でつらいことも依然あることはあるのですが。 さて、大崎市医師会に作っていただいたパンフレットの内容を以下にお示しし、講演の紹介とさせていただきます。
1.関節リウマチとは
関節リウマチとは、関節が炎症を起こすため徐々に軟骨や骨が破壊されてしまい、関節の機能が損なわれ、放っておくと関節が変形してしまう病気です。初期の症状は、朝の「こわばり」、関節の腫れと痛みなどです。進行すると関節の軟骨や骨が破壊され、変形や脱臼などが生じ、動かしにくくなります。関節破壊がさらに進むと、日常生活や家事、仕事に支障が生じるようになります。
2.治療の目標
関節リウマチの症状は、他のリウマチ性疾患の症状と似ています。関節リウマチとそのほかの関節症状のある病気との最大の違いは、関節リウマチは「関節を壊していく」ことです。これまで関節リウマチはゆっくりと進行し、発症から10年以上が経過してから関節破壊が生じると考えられていました。しかし最近では、関節破壊の進行は発症後早期から急速に起こることが分かってきました。したがって、最近のリウマチ治療の原則的な方針として、なるべく早く診断し、関節の壊れを早めに抑え、身体障害に陥らせないことが具体的な目標となってきました。
3.関節痛のみられる病気
関節リウマチには紛らわしい病気がたくさんあります。
伝染性紅斑(リンゴほっぺ病)のウィルスが大人にかかると風邪症状のあとで数ヶ月にわたってリウマチに似た関節痛がみられることがあります。感染症に引き続いて起こる「反応性関節炎」には他のウィルスや感染性胃腸炎に伴うものなどがみられます。
膠原病は腎臓や筋肉、肺や皮膚など様々な臓器に障害をもたらし重症になることもある疾患群ですが、多くの膠原病では関節痛がみられます。乾癬(膝などにかさかさした赤い発疹など)や掌蹠膿疱症(手のひら・足底などにニキビのような発疹)など皮膚病に伴う関節炎もあります。
40歳ぐらいから変形性手指関節症が出てくる方もおられます。主に、年齢的な変化と考えられ、指先の関節に変形や腫れが出現し動かすときに痛みます。また更年期の時期になると、関節自体には変化が少ないのですが、朝のこわばりなど主に指の関節痛が出てくる方がおられます。通常は数年で自然に解消する更年期の関節症状です。
などなど関節リウマチには似ている病気がたくさんあります。関節リウマチでは、副作用のありうるお薬を使用していきますので、これら「似ていて異なる病気」をしっかり見分ける必要があります。
4.正しい診断
関節リウマチを早期に診断するために大切な症状は、関節が1ヶ所でも腫れていて、痛みがあり、それが少し長く続くことです。手関節・指関節が腫れていることや炎症反応検査、リウマチ因子、抗CCP抗体と呼ばれる新しい検査などが決めてです。これらを総合し専門医が診断します。早く正しく診断し、早く治療をということが大切になってきています。
5.治療の目標
関節リウマチの治療の目標は患者さんごとに違います。若いかたで、関節の壊れがほとんど認められない方は、長い人生でも障害が現れないような強力な治療が必要です。リウマチの症状・兆候が全く消失した状態を目指します。70歳くらい以降の方には、リウマチをしっかり抑えながらもやや優しい治療にしていきます。副作用の出やすさなどに配慮するためです。ある程度身体障害のある高齢の方には、それ以上の身体障害の進行を防ぐため、優しいけれども早く効果の現れる治療を考えます。このように、リウマチの強さ、現時点の関節の壊れ方や身体障害の有無、年齢、合併症の有無(肺の障害があるかなど)を総合し、相談しながら治療方針を決定します。
6.治療の実際
関節リウマチの治療の目的は、関節の痛みや腫れをとること、骨・関節破壊の進行を抑えること、生活機能を維持したり改善したりすることの3つが重要です。薬物治療のみならず、時には整形外科的手術やリハビリテーションなど多様な治療が必要になります。
ここからは関節リウマチの治療に用いられる薬を紹介いたしましょう。
消炎鎮痛剤
消炎鎮痛薬は、関節の腫れや痛みを和らげる働きがあります。速効性がありますが、関節リウマチの炎症を根底から取り除くことはできません。
抗リウマチ薬
現在の関節リウマチ治療の第一選択薬は抗リウマチ薬です。しかし、一般に効果が出るまで少し時間がかかるため、消炎鎮痛薬を併用することもあります。抗リウマチ薬には、アザルフィジン、リウマトレックス、プログラフ、プレディニンなどがあります。このなかでは、リウマトレックスが最もよく使われ、効果も期待されるお薬です。
ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)
炎症を抑える作用が強力で、関節の腫れや痛みを和らげる働きがあります。通常は抗リウマチ薬などが効いてくるまで使用し、効果が出たらゆっくりと減量する用い方をします。高齢の方など他の薬を少量とするためステロイドをあえてごく少量使い続けることもあります。しかし、ステロイドには感染症、糖尿病や骨粗鬆症などを引き起こす恐れがあるため、なるべく少量を用います。
生物学的製剤
最近登場した治療薬です。炎症を引き起こす関節内の物質の働きを直接抑制し、関節破壊が進行するのを強力に抑えます。生物学的製剤は、抗リウマチ薬の効果が不十分な場合に使用します。この薬は注射(点滴または皮下注射)で投与しますが、その間隔はさまざまで、通院回数やライフスタイルに合わせて選択することができます。これまでの薬剤に比べると関節破壊の抑制効果は大変強く、関節リウマチの勢いをほとんど「止める」ことも夢でなくなってきています。
しかし、生物学的製剤は大変高価です。内服薬ではなく、自己注射も可能ですが皮下注射や点滴を必要とします。免疫の働きを抑える薬ですから、副作用として肺炎などの感染症が起こりやすくなることがあります。このように使用法にいろいろな難しさがあり、開始する場合は、関節リウマチの状態のみならず、年齢はどうか、自己注射が可能か、経済状態はどうかなど様々な面を検討します。患者さんと相談しながら、使用するか否か、どの製剤を選択するかなど決定していきます。
7.最後に
最近の新しい治療法の登場は、多くの方に、関節を壊さず、痛みもなく、一生元気で働き続けることを可能としつつあります。また身体障害のある方の場合でも、リウマチの勢いをかなりよくコントロールできるようになりました。関節痛の診断や治療に心配があるときはぜひ専門医にご相談ください。