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HOME > 市民医学講座 > 第33回 命にかかわる『虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)』

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第33回 命にかかわる『虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)』
         その危険因子、最新の診断と治療について

みやぎ北部循環器科 院長 和田有行

大崎市医師会主催の第33回市民医学講座にて、市民の皆さんに講演する機会を与えていただき、関係者の方々には心より感謝申し上げます。
昨今では、生活習慣病や心臓疾患等に関する健康番組も多く見うけられ、市民の皆さんの関心も高いようであり、多くの方々にご参加いただきました。
ご存知の通り、心臓疾患は欧米の多くの国では死亡原因の第1位ですが、日本では現在第2位の死亡原因です。中でも、疾病の頻度が高い虚血性心疾患につきまして、この病気を起こしやすい生活習慣病や危険因子の説明と、最新の診断や治療をお話しいたしました。その際に使用しましたテキストの内容を以下にお示しし、講演の紹介とさせていただきます。

1.心臓の構造

心臓の位置は胸のほぼ中央(やや左寄り)にあり、左右の肺のあいだにあります。心臓の大きさは握りこぶしよりやや大きく、成人で約200~300gくらいです。心臓は1分間に60~80回(1日約10万回)拍動し、1回の収縮で約80mLの血液を全身に送り出し、まさしく血液を全身に送るポンプの役目をしているといえます。

2.冠動脈の役割

心臓をとりまく動脈を「冠動脈」と呼び、酸素や栄養素を含んだ血液を心臓の筋肉(心筋)へ供給しています。

3.虚血性心疾患

「虚血性心疾患」とは、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養をおくる冠動脈が、動脈硬化性変化などにより、狭くなったり(狭窄)、塞がったり(閉塞)して、心臓機能の低下や心筋の壊死(心筋細胞の死)を引き起こす病気です。冠動脈疾患とも呼ばれ、狭心症や心筋梗塞を総称したものです。
これらを来たす因子は冠危険因子と言われ、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙は特に4大冠危険因子とされております。その他、肥満、高尿酸血症、ストレス、A型行動パターン、家族歴(遺伝)、加齢、男性、閉経後の女性、気候などが危険因子としてあげられます。

A型行動パターン:常に時間に切迫感をもち、競争心が強く、寛容的ではなく、行動していないといらいらし、野心的でトップを目指しているという特徴をもつ。

■狭心症

冠動脈の中が動脈硬化のために狭くなり、心筋に血液が十分に送られなくなった状態です。胸がしめつけられるような痛みや、息切れなどの症状が出現し、安静により短時間(数分~15分以内)で消失します。

●分類
〈発症の誘因による分類〉
  • 労作性狭心症(angina of effort):体を動かした時に症状が出る狭心症。
  • 安静時狭心症(angina at rest):安静時に症状が出る狭心症。
〈発症機序による分類〉
  • 器質性狭心症:冠動脈の狭窄による虚血。
  • 微小血管狭心症:心臓内の微小血管の狭窄及び攣縮による虚血。患者の男女比が大きく、中でも更年期の女性に多く見られる症状で女性の場合は閉経により血管拡張作用を持つエストロゲンが減少することにより引き起こされます。1980年代になってようやく発見されました。
  • 冠攣縮性狭心症:冠動脈の攣縮(spasm)が原因の虚血。
  • 異型狭心症:冠攣縮性狭心症のうち心電図でST波が上昇している場合。
〈臨床経過による分類(AHA分類、1975年)〉
  • 安定狭心症:最近3週間の症状や発作が安定化している狭心症。
  • 不安定狭心症:症状が最近3週間以内に発症した場合や発作が増悪している狭心症。薬の効き方が悪くなった場合も含まれます。心筋梗塞に移行しやすく注意が必要です。近年では急性冠症候群という概念がこれに近いものです。
■心筋梗塞

冠動脈硬化が進行し、血栓により閉塞すると、その冠動脈から先の血流が突然遮断されます。そして、時間経過とともに心筋壊死が始まり、心臓全体に非常に危険な機能障害(不整脈、心不全など)が起こりうる状態です。激しい胸の痛みが長く続くのが特徴です。

●発症形式
  • 急性心筋梗塞:発症から3日以内
  • 亜急性心筋梗塞:発症から30日以内
  • 陳旧性心筋梗塞:発症から30日以上

【心筋梗塞の死亡率】
心筋梗塞の死亡率は、30~40%と言われております。心筋梗塞を発症し、病院に到着する前に3分の1の方が亡くなっている現状です。病院へ到着した場合の死亡率は10%以下です。心筋梗塞の死亡患者の約60%は心室細動(重症不整脈)によって死亡しているといわれております。

動脈硬化:動脈内膜にコレステロールなどがたまって血管壁が厚くなり、硬くなった状態であり、血管の内径が狭くなると血流障害を来たします。

■急性冠症候群

心筋虚血により数日~数週間のうちに事態が急変する可能性があり、さらには心臓突然死を引き起こす重症な病態を総称して急性冠症候群と言います。不安定狭心症、急性心筋梗塞、虚血性心臓突然死が含まれます。

4.虚血性心疾患の診断
■狭心症
  1. 運動負荷心電図
  2. マスター負荷心電図、トレッドミル、自転車エルゴメーターなどが行われます。負荷中または負荷後の心電図変化をみる検査です。

  3. 24時間ホルター心電図
  4. 携帯型心電図で日常生活中の、特に症状出現時の心電図変化を解析するのに有効です。

  5. 核医学検査(負荷心筋シンチグラム)
  6. 運動もしくは薬物により負荷試験を行い、放射性同位元素の薬剤を静注して心筋の血流をアイソトープ画像として撮影します。虚血があれば画像上可逆性の欠損像として現れます。

  7. 心臓カテーテル検査
  8. 狭心症の原因である冠動脈の狭窄を造影用カテーテルとX線による血管造影で確認し、また左心室の機能を造影で確認します。侵襲的ではありますが、最も正確で確定的な検査であり、治療方針の決定に重要な意味を持ちます。カテーテル治療も本法の応用です。

  9. 冠動脈CT造影検査
  10. 近年、CT(コンピュータ断層撮影=Computed Tomography)装置の進歩によって、カテーテルを入れなくても心臓(冠動脈)の全体像を調べることが可能となっています。冠動脈CT検査は、入院する必要はなく、外来通院で受けることができます。スクリーニング検査として有用な検査です。

  11. 冠動脈MRI検査
  12. MRI (magnetic resonance image:磁気共鳴画像)は大きくて強い磁石を利用した画像診断法です。心臓の動きに合わせてデータ収集する技術(心電図同期)を用いることで、冠動脈の描出が可能となり、狭窄を見つける事が可能となりました。冠動脈CTは短時間できれいな画像が撮れるというのが最大の特徴で、それに対し冠動脈MRIは造影剤が不要、レントゲン被爆がゼロであり、より低侵襲的なのが特徴です。

■心筋梗塞
  1. 胸痛その他の発作状況
  2. 心電図所見
  3. 血液・生化学検査
  4. 心臓カテーテル検査
5.虚血性心疾患の治療

虚血性心疾患の治療には
1)薬物療法
2)経皮的冠動脈形成術(PTCA)
3)冠動脈バイパス手術
の3つがあります。
治療方法は病気の状態により、最善の方法が選択されます。

1)薬物療法
まずは症状を軽くするため薬物治療を開始します。血管を詰まらせる血栓を予防するアスピリンなどの抗血小板薬、症状を安定化させるβ遮断薬、冠動脈を拡張させる硝酸薬などが使用されます。そして、検査を進めカテーテル治療(冠動脈形成術:PCI)や外科手術(冠動脈バイパス術:CABG)などの血液の流れを良くする血行再建療法の適応を考えます。

2)経皮的冠動脈形成術(PTCA)   
経皮的冠動脈形成術(PTCA)は、狭くなった冠動脈を血管の内側から拡げるために行う低侵襲的な治療法で、経皮的冠動脈インターベーション(PCI)とも呼ばれています。
手術の場合は下肢の大腿動脈または上肢の橈骨動脈や上腕動脈から「カテーテル」という細い管を挿入し、大動脈を通過して冠動脈の狭窄部まで進めて治療を行います。

《バルーン血管形成術》
バルーンカテーテルを冠動脈に挿入し、先端にあるバルーン(風船)を拡張して狭くなった冠動脈を拡げる手術です。

《冠動脈ステント留置術》
冠動脈形成手術後の再閉塞や再狭窄のリスクを低減させるための治療法です。 ステントという拡張可能な小さいメッシュ状の金属の筒を血管に留置して、血管の開通性を保持し再閉塞を予防します。留置術後、ステントは冠動脈内に留まり血管をささえ続けます。

【薬剤溶出性ステント】
従来型金属ステントに薬剤とポリマーが塗布され、時間と共に薬剤がステント周辺の血管壁に溶出されるステント。塗布された薬剤により、冠動脈再狭窄(血管の治療したところが再び狭くなること)の原因となる新生内膜増殖が抑制されます。但し、このステントを留置した後は、抗血小板薬(血栓形成を予防する薬)の長期服用が必要となります。

【カテーテルの挿入方法】
カテーテルを通すために局所麻酔を行った後、シースという細い管を血管内に挿入します。カテーテルの挿入部位は、大腿動脈、上腕動脈、橈骨動脈の3ケ所があり、各症例にあわせて医師が選択します。

  • 大腿動脈穿刺法:最も古くからある一般的な穿刺法で、太ももの付け根からカテーテルを通す方法です。特殊な止血器具を使用しない場合は、術後しばらくの間ベット上で絶対安静が必要です。
  • 上腕動脈穿刺法:腕の内側からカテーテルを通す方法です。術後は、腕に添え木をして圧迫止血を行います。数時間後には起き上がれます。
  • 手首からカテーテルを通す方法です。術後は、手首部分を圧迫固定し、1時間くらいで起き上がれます。

3)冠動脈バイパス手術
 冠動脈の狭くなった部分、またはつまっている部分を飛び越えて、自分の血管を使用して迂回路(バイパス)をかけて血液の流れる新しい血管路をつくる手術です。①内胸動脈(胸郭の中を胸骨に沿って下行する動脈)、②右胃大網動脈、③橈骨動脈(手首の動脈)、④大伏在静脈(太ももの静脈)などがバイパスに使用されます。
全身麻酔を行い、人工心肺を使用し、心停止下に手術が行われてきましたが、近年人工心肺を使用せずに心拍動下に冠動脈バイパス手術を行うこと(オフポンプ・バイパス)も可能となりました。

6.いちばんの危険因子は動脈硬化

虚血性心疾患の危険因子は動脈硬化そのものです。脳にコレステロールなどの脂肪沈着がたまればアテローム血栓性塞栓になるのと同様に、心臓の冠動脈に動脈硬化が起これば虚血性心疾患になります。虚血性心疾患の予防は動脈硬化の予防と同じです。
したがって動脈硬化を引き起こす5つの危険因子、高血圧、高脂血症、喫煙、糖尿病、肥満がそのまま虚血性心疾患のリスクファクター(危険因子)でもあるのです。
また、そのほかにストレス攻撃的な性格なども冠動脈の動脈硬化を引き起こす要因と考えられています。これらは生活の中で修正可能なものであるという意味で重視されています。
なお、修正が不可能な危険因子としては、歳をとること、家族歴(遺伝的体質)、男性であることなどがあります。性別が病気のリスクに関係するものはいくつかありますが、女性は女性ホルモンの作用により、男性よりも心筋梗塞の罹患率が低いことがわかっています。
高脂血症、高血圧、喫煙は単独でもリスクの高い要因になりますが、さらに糖尿病などの危険因子が加わると、相乗効果で危険率は加速度的に上昇します。次の数字は主に米国フラミンガム心臓研究による「虚血性心疾患になる危険率」で、危険因子を一つも持たない人を1とした場合の危険倍率が示されています。

  • 喫煙…………………………………2倍
  • 高血圧症……………………………3倍
  • 高脂血症……………………………4倍
  • 高脂血症+糖尿病…………………16倍
  • 高脂血症+高血圧症………………16倍
  • 高脂血症+糖尿病+高血圧症……32倍

高脂血症と高血圧症を併せ持つだけで、「正常な人」の16倍も虚血性心疾患になるリスクが高いのです。これに関連して死の四重奏という言葉がありますが、喫煙に高血圧、高脂血症、糖尿病が加わることのリスクが実感できたでしょうか。

7.最後に

虚血性心疾患治療の理想は、致死率の高い急性冠症候群を如何に未然に防ぐことができるかではないでしょうか。そのためには、基礎疾患である生活習慣病の管理が重要であることはもとより、冠危険因子が多い症例では、無症候性であっても積極的に検査を行い、早期発見・早期治療を目指すべきだと考えております。
近年、画像診断装置の進化は目ざましく、より低侵襲的で診断能力も向上してきております。当院では、心臓疾患専門施設としてのクオリティを維持するため、最新画像診断装置へ更新して参る所存です。


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